夏の晩は どこかざりざりとざわついていて、
眺めるにしても身を置くにしても、
なかなか落ち着けないから性が悪い。
京の都の大路やそこいらでも、
陽が落ちてからようやっと、
涼しい夜陰へ這い出す困った連中は後を絶たずで。
そういう輩の浅慮がやらかした非道から、
哀しくも生まれてしまった妖異の封滅に忙しいのが、
これでも昼間は宮中におわす殿上人、
神祗官補佐という御位もつ、とある陰陽の術師殿。
今宵もひと暴れしたらしく、
都を見下ろす小高い丘のうえ、
何を祈念してのそれか、大きな石の碑が立つ傍らに、
その碑と負けぬほど積み上げられた邪妖らの屍へ、
封印の弊を振り撒いているところ。
気のせいか日頃よりも大きく見える望月を負い、
黙々と作業している痩躯の彼なのへ、
そこへと後から駆けつけたらしく、
「だあもうっ。」
普通一般の人の和子のよに 一から駆けて来ずの、
夜陰から滲み出すよな現れよう。
よほどに遠くから、
これでも一気に飛んで来たらしい黒の侍従殿が、
惨状を見回して苦々しげな顔になる。
「何で俺が駆けつけるまで待てぬかな。」
はらはら振り撒かれる弊は、片っ端から青白く燃え立ち、
それへと触れた物怪らを次々と宙へ消し去ってゆくのだが。
「精霊刀で薙ぎ払って一気に方がついたろに。
こんな小物にまでいちいちと術を当てていては
消耗も大きかろうが。」
「…うっせぇよ。」
相当な抵抗に遭ったのだろう、
淡色の直衣姿もあちこち裂かれた痛々しい姿のまま、
咒弊をばらまき、吽と印を結んでの後片付けを済ませると、
「帰るぞ。」
ぶっきらぼうな言いようをするものの、
歩き出しはしない彼なのが、
連れて帰れとその態度で言っており。
この若々しくも嫋やかな痩躯に、
信じられないほどの法力を潜めておわす術師ではあるが。
それでも活躍すれば その分の疲弊だってしようし、
気概の消耗はその復活や充填も結構 骨で
“…いや、そっちは
滅多なことじゃあ
折れるほど消耗する奴じゃあねぇけどな。”
悪態に近いやも知れぬ言いようを
その分厚い胸中にてこそりとこぼしつつ、
ずかずか歩み寄り、ひょいとその双腕で抱えれば。
見た目よりかは意外なほど、
それなり鍛えられてもいる細い肢体が、
よほどに疲れたか…すりすりもそもそと
こちらの懐ろの深みへもぐり込む。
そういう態度も今更なので、
おお可愛い奴とか今更思わぬところが、
阿吽だというか、もう出来上がっているというか。
帰るぞ。
おお…。
短いやり取り交わしてから、ふっと一瞬淡く光った不思議な存在。
月光の中へ残像を置き去りにし、
たちまちにして宙へと姿を溶かし込み。
丘のうえの夜陰の中に居残ったのは、声なき風の揺れる陰だけ……。
〜Fine〜 14.08.24.
*相変わらずに意地からか単独行の多いお館様で、
葉柱さんも気苦労が絶えません。
実力の程は分かっていますが、
それでも何かあったらどうすんだと。
案じて止まないところはセナくんと変わらないかもです。
めーるふぉーむvv
or *

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